歴史上の人物の肖像権、著作権、所有権、商標権について調べた結果をまとめました。
これらを侵害しない史資料の利用方法についても書いています。
あくまで法律のプロでも何でもないド素人が自分の理解のために調べた内容ですので、とっても雑な書き方をしています笑
ふんわり、参考までにお願いします。
はじめに
まずはじめに、歴史上の人物自身の権利は、基本的にはありません。
そもそも、法律の効果は遡及しませんし、歴史上の人物は亡くなっているからです。
しかし!
歴史上の人物に関連する史資料の所蔵元(所有者)や、史資料や史跡を撮影した写真などの権利関係は、見逃せません。
知らないうちに人様の権利を侵害しているなんて、嫌ですよね。
この記事では、「龍馬の権利」とかいう存在しないものについてのワードが多発されますが笑、せっかく調べたので、真面目に色々書いていこうと思います。
肖像権(写真)
肖像権は明文規定がない
肖像権とは、簡単に言えば、勝手に自分の写真を撮られて意思に反して公表され、精神的苦痛を受けたりしない権利です。
しかし「肖像権」として明文化された法律はなく、実質的には民法に規定された「人格権」の一種のようにとらえることができます。
肖像権者の権利
例として、坂本龍馬の有名な肖像写真をあげますが、この場合、肖像権者は龍馬ですね。
龍馬の権利ってなんでしょうか。
- 勝手に写真撮られて公表されない
- 勝手に写真撮られて平穏な生活を乱されない
などですが、そもそも龍馬は没後100年以上が経過しています。
肖像権は明文規定がないので当然ですが、「〇〇年間は守られる」という規定も当然ありません。
ですので実質、歴史上の人物の肖像権はないと言えます。
また、過去の判例では、勝手に写真を撮られて公開されたことによる精神的苦痛により、慰謝料請求が認められた例がありますが、原告はあくまでその苦痛を受けたご本人です。
さらに、公の人物(政治家、公務員、芸能人など)は、常軌を逸しない限り、肖像権は制約されるのが常のようですので、今でいう政治家っぽい立場である龍馬については、肖像権に関しては、利用するにあたって特にひっかかる点はないと思われます。
肖像権をクリアした使い方
歴史上の人物の肖像権のみについて言えば、
- 誹謗中傷が目的などでない限り、普通に使っていい
ということになります。
著作権(写真・手紙)
著作者の権利
著作権は、自分が撮った写真や、自分の創作物(絵、文章、手紙など)を、他人に勝手に使われない権利です。
著作権法という法律があり、人様の著作権を侵害した場合は、著作権法に基づいて罰せられます。
歴史上の人物でいえば、龍馬が書いた手紙、龍馬の写真を撮った上野彦馬、土方歳三の俳句集、なんかがあてはまるかもしれません。
みていきましょう。
著作者の死後70年経過で、著作権は切れる
著作権法では、著作権は著作者の死後70年を経過するまでの間、存続すると規定されています。
(保護期間の原則)
第五十一条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。
(保護期間の計算方法)
第五十七条 第五十一条第二項、第五十二条第一項、第五十三条第一項又は第五十四条第一項の場合において、著作者の死後七十年、著作物の公表後七十年若しくは創作後七十年又は著作物の公表後七十年若しくは創作後七十年の期間の終期を計算するときは、著作者が死亡した日又は著作物が公表され若しくは創作された日のそれぞれ属する年の翌年から起算する。
幕末の写真、手紙などの著作権は切れている
龍馬の写真でいえば、その写真を撮った上野彦馬の死後70年で、著作権は切れます。
上野彦馬は明治37(1904)年5月22日に亡くなっていますので、1905年から起算して50年=1975年で著作権が切れます。
龍馬の手紙や土方歳三の俳句集も同様ですね。
著作者は、手紙を書いた龍馬自身や、俳句を作った土方歳三自身です。
龍馬は慶応3(1867)に亡くなっていますので、1868年から起算して70年=1938年で、土方は明治2(1869)年に亡くなっていますので、1870年から起算して1940年に、著作権が切れています。
よって、手紙や俳句集自体の著作権の問題は現在ありません。
つまり、幕末に撮られた写真や、作られた手紙、俳句、漢詩などの著作権は無いと言えます。
幕末を生きていて、現代も生きている人はいないでしょう。
ですので、龍馬の写真の実物や、土方の俳句の実物は、自分のスマホやカメラで撮影して使用しても問題ないということです。
著作権が切れていても、自分自身で撮影・作成したものだけ使える
以上の例で著作権が切れているのは、
- 上野彦馬が、撮った龍馬の写真
- 坂本龍馬が、書いた手紙
- 土方歳三が、書いた俳句
についてです。
これらの資料を、さらに「誰かが」撮影していたら、それはその「誰か」に著作権が発生していますので、注意が必要です。
つまり、自分以外の人が撮影した写真は、その写真を撮った人のもので、当然、無断での使用や転載は出来ない、ということです。
自分自身で撮影・作成したものや、著作権フリーが明示されているものを使用しましょう。
著作権をクリアした使い方
歴史上の人物の著作権のみについて言えば、
- 死後70年以上経過していれば、著作物(写真、手紙など)の著作権は切れている
- よって、これらを自分自身が撮影すれば、使用しても問題ない
- 自分以外が撮影したものは、使用できない
といえます。
文化庁による著作権解説ページ
参考になりますので載せておきます。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/
所有権(写真・手紙・資料)
所有者の権利
所有権とは、自分の持っている物について、自由に使用し、お金儲けをして、処分していい権利です。
自分のものであれば、土地でも家でもシャーペンでもスマホでも好きに使えますよね。
では、歴史上の人物の写真、手紙、刀など各種遺品についてはどうでしょうか。
歴史資料の所有権について考えます。
著作権と所有権は全く別
まず、著作権と所有権は全く別の概念です。
今まで、龍馬の肖像権も著作権もない(切れてる)から好きに使えるよ、という話をしてきましたが、一番重要なのはこの所有権です。
著作権の問題をクリアしていても、所有権の問題をクリアしていなければダメなのです。
所有者の権利は強い
例えば、龍馬の史料の多くは京都国立博物館が所蔵しています。
この場合、龍馬自身の肖像権や、著作権はすでにありませんから問題ないとしても、京都国立博物館が持つ所有権の問題があります。
龍馬の肖像権とか著作権ないから自由だ~!と思っても、所有者の京博がダメといえばダメです。
京博が、写真撮っていいよ、と言ってくれれば、OKです。
所有者の許可があることを前提に、写真を撮ってOKなのです。
なので、京博がダメと言ってるのに写真を撮ったり、京博が撮影した龍馬の手紙を勝手に使うことはできません。
京博の展示に足を運び、その手紙が撮影可能であって、自分で撮影したのであれば、使用に問題はないということです。
なお、他の博物館所有の資料も同様です。
博物館の展示で撮影禁止が多いのは、よその博物館や寺社、個人蔵の方から展示資料を借りてきていたりするので、それらの所有元の所有権の問題上、主催の博物館が勝手に撮影を許可したり出来ないのです。
もちろん、事前に所有元が撮影可としているのであれば、それを前提に撮影は許可されます。
(ちなみに史資料を劣化させないという意味でも、写真撮影は禁止されたりします)
所有権をクリアした使い方
歴史上の人物の資料の所有権のみについて言えば、
- その資料を持つ所有者の言うとおりにする!
- 所有者がいいよ、と言ってくれればOK
- 所有者がダメ、と言うなら、たとえ肖像権や著作権をクリアしていてもダメ
ということです。
貴重な史料を見たいんだけど・・・
こうして見てくると、所有者って強いな!
じゃあ、龍馬の手紙とか国宝の刀とか、すっごく歴史的価値のあるものであっても、所有者がずっと家に置いてしまってしまえば、見ることはできないの?と思うかもしれません。
結論から言うと、そのとおりです。
所有者の権利が第一となります。
しかし、文化的価値のあるものについては、公の利益のために、法律が設けられています。
それが文化財保護法です。
文化的価値があるものは、公開する努力義務がある
文化財保護法は、貴重な文化財を保護することが目的ですが、一方、文化財の活用についてもこう書かれています。
(国民、所有者等の心構)第四条 一般国民は、政府及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するために行う措置に誠実に協力しなければならない。2 文化財の所有者その他の関係者は、文化財が貴重な国民的財産であることを自覚し、これを公共のために大切に保存するとともに、できるだけこれを公開する等その文化的活用に努めなければならない。3 政府及び地方公共団体は、この法律の執行に当つて関係者の所有権その他の財産権を尊重しなければならない。
つまり、文化財保護法に登録されるレベルの貴重な史資料を持っている所有者については、できるだけ文化的活用をしてね、ということです。
とはいえあくまで努力義務なので、やはり所有者の意向が第一にはなります。
博物館所有なら展示アリ、個人所有だと激レア
上で挙げた京都国立博物館のように、国公私立の文化施設については、基本的に定期展示があります。
保護と同時に、国民に資する文化的活動をすることが、お仕事だからですね。
また、個人所有であっても、博物館などに史資料を寄託していれば、同様に展示される機会があります。
とってもレアなのは、個人所有の史資料です。
個人所有となると、数十年に一度しか公開されなかったりもします。
あくまで所有者の意向が第一なので、仕方のないことと言えますし、周りが強制したりすることは絶対にできないのです。
お目当ての資料が公開されるときには、ぜひ駆け付けて拝みましょう笑
商標権(商用利用する場合)
商標権とは、商品やサービスに使用する商標について、独占して利用する権利で、特許庁に出願して許可されたら認められます。
歴史上の人物の商標権って、どういうことでしょうか。
商標権者の権利
商標権は、これまで見てきた肖像権、著作権、所有権とは一線を画した、利益を得るための独占排他的な権利です。
なので、「歴史上の人物の名前を独占的に利用して利益を上げる」なんて、歴史上の人物の公共性を考えれば変ですよね。
高知県が「坂本龍馬」を商標登録しようとして退けられたのは有名な話ですが、さもありなん、といったところです。
地方自治体は公共団体ですからね。
歴史上の人物の名前の商標権って何がある?
民間の酒造会社とか飲食店、お菓子メーカーなんかは、歴史上の人物の名前を使った看板商品の名称などを商標登録しています。
本来、商標権とはこういった使い方をされるもので、歴史上の人物にちなんだオリジナル開発商品などは、独占排他的に保護されるものです。
歴史上の人物の名前だけではなくて、商品やサービス+それらに使用するマーク・名称がセットで発生する権利なのです。
例えば日野の高幡まんじゅう松盛堂は「土方歳三」を商標登録しています。
これなら、自分のところのオリジナル商品(まんじゅう)+土方歳三、なのでOKなわけです。
また、「岡田以蔵」も、日本酒や焼酎の名称としてあるメーカーに商標登録されています。
日野市は「新選組のふるさと」というワードを商標登録しています。
これは、確かに日野市以外に新選組のふるさとを名乗れる自治体はないでしょうから、新選組のふるさとというワード+自治体としての広告・宣伝というサービスを登録できたというわけです。
高知県のように「坂本龍馬」だけですと、北海道、京都、霧島などいくらでも関係する自治体やゆかりの地、グッズ、商品などがありますので、高知県に独占されると困るわけです。
高知県も「坂本龍馬のふるさと」とか「龍馬のふるさと桂浜」(←)とかなら問題なかったかもしれませんね。
商標権をクリアした使用方法
以上述べたように、歴史上の人物自体については、商標権は関係ありません。
あくまでどこかの会社の商品・サービスに関する、歴史上の人物の名前などを使った権利、なので、関係のない第三者が、それを使ってどうこうする、ということはありませんので、気にしなくていいです。
商標権はあくまでビジネス上での権利、ということです。
商標を検索してみる
こちらが特許庁に登録されている商標を検索できるページです。
色々な歴史上の人物や組織で検索してみると楽しいかもしれませんので、興味のある方は見てみてください笑
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
おわりに
以上、肖像権、著作権、所有権、商標権についてみてきました。
私自身、調べながら書いたので、だらだらと長くなりましたが、参考になればうれしいです!